03/31の日記

23:44

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「まあ」

『自分の変化はそこらの変化とは違う』
と豪語するだけあって、才蔵の変化はいつも見事だと思う。

気持ちからなりきってしまうらしく、まさしく背負う雰囲気からして本物そっくりだ。

「凄い…本物の半蔵みたいですね。」

目の前に斜めに構え、顔を布でかくした忍びに感嘆の声をあげる。

「…もういいか?この格好はあまり…好ましくない。」

「苦手なのですか?」

「…。」

布の間から見える鋭い視線も半蔵そのものだ。

そこで、姫はどうしても気になって居る事を聞かずには居られなくなった。

「あの…その、布の下も、半蔵に変化してるのですか?才蔵は彼の素顔を知っているのですよね。」

「…。」

姫の質問は、本物になりきる才蔵の自尊心に爪をたてたようだ。

「あたりまえだ。本人にならずしてどうする。」

少々ムッとした様子の半蔵の才蔵に、姫は手を合わせた。

「…素顔を見せてはくれませんか?」

なんだと、と目を見開いた半蔵の才蔵だが、断る理由は半蔵にはあっても才蔵には、ない。

「…いいだろう、特別に見せてやる。」

そう言って両手をあげ、顔の布の端を掴もうとしたその時


一瞬の殺気が、きらりと光った。

「!」

とっさに姫をかばい、盾となった才蔵が忍刀で弾いたのは伊賀者の手裏剣だった。

げっやべぇ、と決して半蔵は口にしないであろう声を、姫は確かに半蔵の才蔵の喉から聞いた。

普段ならば絶対に、変化した者の口調でしか物言わぬ彼が、心底から吐いた言葉。

それは、いつのまにか中庭に現われていた伊賀上忍の姿を認めれば納得の行く事だった。

「…なんの余興だ、才蔵…。」

静かに佇む服部半蔵その人は、明らかに怒っている。

才蔵の背中に冷たい汗が流れたが、その唇はにやりと笑った。

「…ふん、こうなりゃやぶれかぶれだ。いっそ今すぐこの布取って顔曝してやるぅぅ!」

「…な…っやめろぉぉ!」

半蔵の咆哮が躑躅ヶ崎館に響いた。

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さて姫は半蔵の素顔が見られたのでしょうか。

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