04/07の日記

22:40

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朝餉を終えて、部屋に戻る途中何気なく庭を見た姫は
雀たちが元気に飛び回るので
何か余り物があったらお昼にでも貰って来よう…と
縁廊下の下に目をやって首をかしげた。

なにやら、白いような灰色のような小さなものがうごめいている。

「…?」

近づいて良く見てみようかと草履を履こうとしたら幸村に止められた。

「姫様、いけません。それは雀の雛です。」

「雀、の…?」

「どうやら飛び立つ前に巣から落ちたのでしょう。親たちも騒いでいますし。」

「まあ…。」

それは助けなくてよいのでしょうか?と言いたげな瞳に気づいたのか
幸村は毅然とした態度で言い放った。

「人が触れば親たちから見離されます。我らに出来るのは自然に任せるだけなのです。」

それは生きる事の厳しさ。

常に命がけで戦場を駆ける武人の言葉であれば、姫は抗う事もできず、そっと見守る事にした。

幸いにも天気が良く、姫が動かず座っているとやがてどこからともなく親雀が降りてきて何か食べ物を与えているようだった。

ああ、人が触れたらこれが出来ないのだわ、と納得して息を殺していると親雀が飛び立った。

「あ…っ」

見ると、少し離れたところから猫がこちらの様子を伺っている。

どうしよう、猫を追い払わねば。

あの雛が食べられてしまう!

けれど触ってはいけないと言われたし…と姫がオロオロしていると

屋根の上から何かがヒュンッと飛んで、猫に命中した。

小さな礫であったのか、驚いた猫は高い悲鳴を上げると一目散に逃げて行く。

姫はホッとして屋根の上から顔を出した才蔵に声を出さずにありがとう、と言うとにっこり笑った。

暖かい春の日差し。

雛を見つめながら、姫が座ったままうとうとしているとぽつりぽつり、と小さな雨が落ちて来た。

ハッとして目を覚ました姫は、雛の居る場所に大きな傘が置いてあるのに気づいた。

すぐにやむ小雨ならば、十分しのげるほどの傘は、いつも幸村が使っていたものだ。


それから姫は、親雀が何度もそこへ訪れるのをじっと見ていた。

やがて夜になり、眠るように言われても座り続けた姫の横に、いつしか幸村が掛け布団を持って座っていた。

静かな春の夜。

うとうとする中で、何度か幸村がその場を離れるのを感じたが、何故だか安心感があった。


次の朝、姫が目を開けると傘の下に雛の姿はなかった。

空には、たくさんの雀が舞っている。


「大丈夫です、夜中の獣は追い払いましたから。」

布団に包まったままの姫に、幸村が笑う。

姫はそっと、その布団に隙間を開けて

「もう少し…。」

と眠そうな声でいざなった。


「いい大人がなんでこんなところでこんな格好して寝て居るのだ。」

呆れた信玄の声が、聞こえるまで。


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