04/12の日記

23:30

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朝からはっきりしない空の色ではあったが、午後になるといよいよどんよりと曇ってきた。

姫は中庭に下りて、小さな池のほとりに立つと温んできた水に嬉々として泳ぐ魚たちをぼんやり見ている。



水面に、ぽつりと一滴の雫が空から落ちた。

「あ…。」

見上げると、ぽつぽつと降り始めた雨粒が、姫の顔にも落ちてくる。


「何をなさっているのです?濡れてしまいますよ。」

見上げた顔の上から、幸村が覗いてきて姫は慌てて首を戻すと赤面しながら呟いた。

「降り始めの一粒に触れると、幸せになると…言いませんか?」

それは昔、どこで伝え聞いたかも忘れた、ただの迷信かも知れないけれど。

すると幸村は少し驚いたような顔をして、すぐに困った表情になった。

「…姫様…姫様は、幸せになりたいのですか?今はそんなに不幸でいらっしゃるのですか?」

姫はハッとして自分の言った事が、いつも自らを省みずとも姫を労わろうとする幸村の心を傷つけたのだと気づいた。

「違います、幸村。私は…。」

不幸だなんて、これっぽっちも思っていないのだけれど。

姫は幸村の袖をぎゅっとつまみ握った。

「欲張りでごめんなさい…。」

けれど、満足は出来ないのだ。


いつか全てのいくさが終わり、幸村が常に傍に居てくれる日々が来るまでは。


握った袖に、そっと寄り添えば、少し頬を染めた幸村がその手を手繰り寄せて胸に抱き締めた。


雨粒が、ひとつまたひとつと池の水へと落ちていく。

二人はそれでも、その場をしばらく動かなかった。

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