Fate/日和
□名門魔術師小野妹子の優雅なる非日常
◆◆◆
それは、稲妻のような切っ先だった。剥き身の日本刀、非現実のカタマリが迫ってくる。スローモーションのようでさえあるのに、かわせないことはわかりきっていた。それが稲妻である以上、人の目では捉えられない。当然だ。
だが。
この身を貫こうとする稲妻は、 夜に阻まれた。音もなく、降り立ったその人は宵闇色を纏って、ただ立っていた。
背中に刺さっただろう刃のことはまるでなかったかのように、彼は微笑む。
「なんかとんでもないとこに喚んでくれちゃったみたいけど、初めましてマスター」
柔らかな言葉とは裏腹に、月明りのような、冴え冴えとした声で彼は言った。
とりあえず、と冷たい唇が手の甲に落とされた。
「これより我が身は君と共に。ここに契約は完了しました」
あまりのことに呆然とする僕に、さて、と彼は笑ってみせる。オレの大事なマスターに狼藉を働いた輩をどうしてやろうか、なんて夕飯のメニューを考えるように軽い口調で。
だけど、僕はこの非現実から抜け出せない。思考がついていかなくて、目だけがしっかり彼を追う。
月光すらも霞むような、白い顔。夜が形をとったような姿。
僕は、ずっとあなたに会いたかった。気づけば、頬に熱いものがこぼれていた。
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