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(なんでこういうことになったんだっけ?)
「やっぱドリブル苦手だな」 
 彼は苦笑しつつ、シュートを放つ。
「あ、」 
 すとん ボールがゴールに吸い込まれるような、綺麗な3P。  
 僕は今、なぜか公園のバスケットコート(というには簡素だけど)で1on1をやっている。
 相手は誠凛の主将−日向さん−。
「僕とこんなことしてていいんですか…?スミマセン」
 また試合するのに。
「情報なんて筒抜けだろ」
 僕の言わんとしたことがわかったらしく、日向さんは笑った。  
「それ、は」
「…それに、俺は」
 遮るようになにか言いかけて、少し逡巡して黙ってしまった。
「へ?なんですか?」 
 気になったけど、苦笑を浮かべるばかりでそれ以上は望めそうになかった。
 日向さんは一言も発せず、ボールを持って構える。
 
「付き合え」と言われて、なんで?とか、この人は何を考えてるんだろう?と思ったけど、
 流されてしまった。 …いや、正直に言ってしまおう。本当は嬉しかったのだ。
 …自覚してしまったから。
  
 
 それはついこの間のこと−
 今度こそ出逢ったのは偶然だった。
「お前、…桐皇の…」
「え?」
「桜井…だっけか?」
 僅かにためらいが混じる声。
「あ、…はいっ…スイマセン」 
 その人は戸惑ったような、困ったような顔をして笑った。
「…日向…さん?」 
 僕の表情は驚きで間抜けなものになっていたと思う。だって、あまりにも印象が違ったから。
 コート上で見せるのとは違う、柔らかく、穏やかな雰囲気があった。
 なぜか少しチクリとした。
 僕の反応をどう受け取ったのか、
「…あ−、そうなるよな」
 苦笑しつつ、ためらいがちに僕を見た。
「…?」 
 微妙な、…奇妙な、間。
「えっと、その、」 
 お互いに言いたいことがあるはずなのに、言葉が出てこないような、そんな。
(考えすぎかもしれないけど) 
 きっと、いいイメージは持たれていないだろうとは思ってた。(思っている)挑発的に接してきたわけだし。
 僕には自分のほうが上手いという自負もプライドもある。
 けれど、彼はどこか気になる存在ではあって。  
 自分とは違うタイプの選手だとか、ウチの主将とはまた違うリーダーの資質とか、なにかを背負っているのかなとか。
 …きっと、惹かれているのだと思う。
「日向さん、あのっ」 
 だからなのか、なにか言わなくちゃいけない。と思って口を開いた。のに、
「キャプテン」
  ふいに後ろから声がして、僕の思考はとんでしまった。
「うわっ」
 誠凛の黒子君だった。彼の技能はわかっていてもびっくりする。意識していなければなおさら。
「黒子、お前なあ、」
「さっきからいましたけど」
「で、なんだ?」
 日向さんは慣れているようで、すぐに、仕方ないな。という感じで接している。黒子君が心なしか嬉しそうに見えた。
「呼んでくるようにと言われました」
 どうやら、他のバスケ部員もいるらしい。
「…ったく、あのバカっ」 
 思い当たるふしがあるらしく、僕たちに背中を向けて歩きだそうとする。
 と、振り返って、
「なんか…悪かったな。桜井」 
 苦笑の中に照れのようなものが見えた気がした。
「また、な」 
 呟きのよ うな小さな声だった。聴き逃してしまいそうな。
 深い意味はないと思う。試合で会うのだ というようなことなのだろう。
「…あ、黒子、このままフラっと姿消すなよ?」 
「そんなことしません」 
 黒子君はついていくのかと思いきや、どういうわけか後を追わない。遠くなる背中に向ける、その眼差しにズキリとした。
 彼はなにを思ったのか
「普段は優しいですよ」
 視線は動かさないまま、静かな、落ち着いた声音で言った。     
 僕に言っているのだとすぐにはわからなくて、疑問符を浮かべたままで、黒子君を見遣る。 
「それって、」どういうことかなんて、だいたい想像はつく。彼が抱いているのは単なる尊敬でも、親愛の情でもない。
 そんな顔するから、気付いてしまった。
 憧憬よりも、もっと強い、 …想い−
 
 きっと、同じ もの。
 
 自覚、してしまった。
 想いも嫉妬も。
 だから、思わず言ってしまった。





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