1日目:
内臓出しっぱなしの美人を拾った。
拾いたくて拾ったワケじゃねェよ…ホントに。

笑ったように見えた眼がやけに気になってつい。
医者を呼んだが、どうしてこうなったかなんて知るかンなもん。

名前も知らねえし。
取り敢えず俺の家が軽いオペ室になって、拾った男は深い眠りへと落ちた。
医者が煙草吹かしてる俺に一言「怪我人前によくそんな物吸えるね。暫く安静だから近くでは吸わないように。近くっていうのはこの建物でってことだからね」だとよ。

フザケンナ。



2日目:
拾った男は目を覚まさない。
禁煙1日目。
イライラしてくる。

気を紛らわす為に酒を飲むもあまり喉を通らない。
仕方がないので、結局外で吸う。


3日目:
拾った男はやはり目を覚まさない。

寝息は聞こえるから、生きてはいるみてぇ。
ガムを噛むも、物足りない。

早くも外に行かずして吸ってしまいそうだ。
ベッドは占領されてしまっているから、もう一つの部屋を使う。

何年ぶりだろうか…



4日目:
口寂しさは相変わらずで、また拾った男も相変わらずで目を覚まさないまま。まるで息だけをする人形のようだ。
動かない瞼と、意外と長い睫毛。

閉じられた瞳に、俺はどう映ってた?

気づくといつも指の間に煙草が挟まっていた。



5日目:
流石に起きてもいい頃だろと思うも、未だに目を覚まさない。

医者が毎日来て大体の治療はしたと言っていた。

「包帯を変えろ」だの「身体を清拭しろ」だの俺に説教をした後帰って行った。
誰が男相手にやるか。

美人のねーちゃんなら喜んでやるのによ。



6日目:
取り敢えず清拭してやって、再び寝かしておくが、このまま目を覚まさなかったらどうするかを考える。
流石にずっと面倒見るのはゴメンだぜ。
できるかぎりの治療は済んだと今日医者が言って、包帯と痛み止めを置いて行った。



7日目:
目を離している内に、目覚めた男はさらりと失礼なセリフを口にした。
ここが地獄に見えるかバァカ。

外で吸おうとしていた煙草を銜えたまま上から見下ろせば、驚いたように見開いた瞳が綺麗だった。

***

目覚めた時、目に映ったのはやはり紅だった。

そして「吸うぞ」と宣告して、彼は煙草を美味しそうに吸い始めた。
噎せそうになる紫煙が、肺を侵した。



8日目:
夢かと思ったものの、目を覚ますとやはり庶民的だった。
食事はあまり作れないからと、出来合いの物が多かったがとても申し訳無く思う。

まだ身体は思うように動かず、トイレに行くまでも悟浄さんの世話になりっぱなしだ。
なぜ死に損ないの僕を生かしたのだろう。



9日目:
腹部の痛みに、歯を食いしばって耐えていたが流石にバレてしまった。

額に浮かぶ脂汗は誤魔化す事は出来ない。
処方されていた「痛み止め」を悟浄さんは勧めたけれど、僕は拒んだ。

飲んだとしても、痛みなんてどうせ感じないようになる―――――
それと花喃が受けた痛みは、こんな物では無かっただろう。
なんて考えて耐えていると、無理矢理口を開かれて薬を流し込まれた。



10日目:
薬のお陰か漸く自力で座っていれるようになり、悟浄さんが暇だろうとカードを持ってきた。

カードも楽しかったが、悟浄さんの反応がとても面白い。

一週間も目を覚まさず厄介になっていたのにも関わらず何も聞いてこない彼は本当に興味は無いのかもしれない。
此方から伝えたい事はあったが、今では少しだけにして言葉を噤んだ。
「器用ビンボーなタイプだろアンタ」
俺もだとはにかむ表情に、心が少しだけ軽くなった気がした。



11日目:
「やり残した事がある」と困ったような笑みを浮かべた男は、クソ強い運の持ち主だと言うことが分かった。

けれども、その運を上手く活用できれば苦労はねェ。
育ちも性格も正反対のようだけれど、自身の面倒な部分がとても良く似ているようだ。

親近感が湧いたワケじゃねぇケド、どこか放っておけない雰囲気を無意識に感じ取ってしまっていた。



12日目:
若干大きめだけれど、ぴったりの衣類までお借りしてしまって何もできない身体が嫌になる。
まだ支えがなければ移動ができない様を、何も言わずに手を貸してくれる。
本当は、いつも出歩くライフスタイル なんだろうけれど
自由を奪ってしまっているようだ。
でも少しだけ、荒れた台所と散乱するゴミが気になった。



13日目:
毎日顔を見て様子を聞くたびに、出て行く予定を聞かないんだろうとかどうして追い出さないんだと言いたげな顔をする。
追い出すことは確かにできた筈だったが、追い出そうとは別に思わなかった。
この男が来てから、昔今俺が使っているベッドや部屋を占領していやヤツを思い出す。
あいつ、今何してんだろうか。
捕まってボコられただけで済んだのか、遠いトコロに行ったのか。
また同じように悪事で食いつないでいるような気もする。



14日目:
「どうよ、傷の具合は」
朝から野郎の顔色をらしくもなく気にしていた。
「ええ、まだあまり良くありませんが痛みは無くなってきました」
眉を八の字にして、苦笑する表情はこの数日間で何度も目にした。
一種の癖なのか、それともそうやって生きてきたのか。
別に興味は特に沸かなかったが、不思議と毎日気になって仕方が無かった。
傷がどうとか、体調の面ではなくて。



15日目:
自力で立ち上がって見ると、だるさは残るものの幾分かマシになってきた。
しかしやはり動くとまだあちこちの傷が痛む。
部屋の中を一周していると、「何やってんの」と悟浄さんに目撃されてしまった。
それと同時に足元がフラつき、転倒しかける。
尽かさず腕を貸してくれたが、このまま感謝をするばかりではどうにも休まらない。
「歩ければ、早くにでも出ようとは思うんですが」
あははと笑う僕に、悟浄さんは肩をポンと叩いた。
「医者の言うことは聞いておいた方がいいぜ?」
あまり急がなくてもいいと言うかのように、ニッと笑っていた。
「このままじゃ、やり残したこともできねェだろ」

「ええ、そうですね…」
全くその通りですが、別に回復をしても今の状態でも結果は同じになる。
恐らく僕は、この恩を無駄にしてしまうだろうから―――――






2014/5/8 58days






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